RAKSUL TechBlog

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ラクスル入社して1年を振り返る

はじめに

ラクスル Advent Calendar 2025 1日目を担当する、MBS開発部でDirectorを務めているkasuya(@n.ile)です。

MBS開発部は、ラクスルの中核事業である印刷ECの開発・運用を担当しています。業務内容の詳細については、先日公開されたインタビュー記事をご覧いただければと思います。本稿では、12月で入社1年を迎えるにあたり、この1年間の取り組みを振り返ります。

年間230億円の印刷ECを支える心臓部 ― MBS開発部が挑む「10年後の再設計」|ラクスル株式会社

入社1年目のテーマ:「整備」

入社1年目は、組織とプロセスの基盤整備に注力しました。チームが迷わず課題に取り組める環境を構築すること、具体的には働き方の標準化と体制の最適化を最優先事項として進めてきました。

この1年を漢字1文字で表すなら「整」です。

主な取り組み

1. 明確な生産性指標の設定

MBS開発部は、2025年を通じて開発生産性の向上に取り組んできました。

開発生産性には多様な定義がありますが、当部では仕事量の生産性を主要指標として採用しています。本来は期待付加価値の生産性を追求すべきところですが、まず「開発リズムの確立」という観点から、測定可能性の高いこの指標を選択しました。

開発生産性の考え方については、広木大地氏の整理を参考にしています。

参照:開発生産性について議論する前に知っておきたいこと - Qiita

2025年前半では、問い合わせ対応やデータ抽出などの保守業務と機能開発の比率をスプリント単位で測定し、保守比率の低減を目標としました。業務実態の可視化とボトルネックの特定において一定の成果を得られましたが、改善策の多くが管理画面の提供などの機能開発を伴うため、プロジェクトとして推進する必要があり、まとまったリソース確保が課題となりました。

2025年後半では、全社的なAI活用推進を受け、AI Agentを活用した開発生産性向上を目標に設定しました。Tech本部全体で議論を重ね、mainブランチへのマージPR数を要員数で除した値(Merged PR / Head Count)を指標として採用しました。本指標については本部内でも議論がありましたが、測定の容易性と直感的な理解のしやすさを重視しました。

プロジェクト状況による変動を考慮し、月次および四半期単位でトレンドを追跡しています。AI活用の進展により、前年比約20%の生産性向上を実現しています。

2. 開発環境・ツールの整備

開発環境の整備は重要な課題でした。システムの複雑化に伴い、ローカル開発環境の構築手順も複雑化し、環境構築に多大な時間を要する状況が続いていました。新規メンバーの受け入れ時には、環境構築だけで初週の大半を費やすケースもあり、体制強化の観点からも改善が必要でした。

この課題に対し、Dockerコンテナ化の推進と構築手順の見直しを実施しました。その結果、環境構築時間を数日から数時間へ短縮し、個別環境の差異も最小化することができました。複雑な環境を粘り強く整理してくれた担当メンバーには深く感謝しています。

AI活用については、一部で先行利用されていたCursorを標準ツールとして採用し、全エンジニアにアカウントを付与しました。これにより、AI Agentを活用した開発を本格的に推進する体制を整えました。

導入当初はコードリーディングでの活用が中心でしたが、チーム内外での事例やTipsの共有が活発化し、現在ではVibe Codingの実践も広がっています。コードの9割以上をAIが生成するプロジェクトも出現しており、開発スタイルの変革が進んでいます。

3. スクラムの再定着

5月に新卒研修を修了した3名が、MBS開発部に配属されました。

新卒研修ではスクラムスタイルでの開発実習を行っていましたが、改めて基礎理解を深めるため、「スクラムガイドを読む会」を実施しました。他部門の新卒および若手社員も参加し、全4回に分けてスクラムガイドの内容を解説しました。スクラムの理論、価値基準、チームの役割、イベント、成果物などを扱いましたが、私自身にとっても基礎を再確認する貴重な機会となりました。

また各チームには、スプリントゴールの明確化、ベロシティの継続的確認、レトロスペクティブでの振り返りなど、スクラムの基本原則を徹底するよう働きかけています。

まとめ

入社1年目を振り返ると、「整備」に注力した1年でした。生産性指標の設定、開発環境の改善、スクラムプロセスの再定着という3つの軸で基盤を構築し、チームが安心して業務に集中できる状態を作ることができたと考えています。

2年目は、この基盤の上で、より高い付加価値を生み出すフェーズへ移行していきます。開発生産性の定義も「仕事量」から「期待付加価値」へシフトし、事業成長により直接的に貢献できる開発組織を目指していきます。