
2026年6月8日〜12日に開催された「JSAI2026 – 2026年度 人工知能学会全国大会(第40回)」に、データ戦略部のメンバーで参加してきました。 本記事では、JSAI2026に参加して特に印象に残った発表や、会場の雰囲気、参加を通じて感じたことについてご紹介します。
JSAI2026とは
JSAI2026-2026年度 人工知能学会全国大会は、一般社団法人 人工知能学会が主催する国内最大規模の人工知能関連の学会です。 大学・研究機関・企業など幅広い参加者が集まり、機械学習、自然言語処理、生成AI、マルチモーダルAI、AIエージェント、AI倫理、産業応用など、多様なテーマについて研究発表や議論が行われています。 2026年度大会は第40回の節目となる大会で、Gメッセ群馬およびオンラインのハイブリッド形式で開催されました。現地会場にも多くの参加者が集まり、セッションでの発表やポスター発表、企業展示を通じて活発な議論が行われていました。
参加の背景
ラクスルのデータ戦略部では、マーケティング施策の効果検証、商品推薦や検索、生成AIを活用した業務支援、架電リストの生成等、データやAIを活用したさまざまな取り組みを行っています。 一方で、近年は生成AIやLLM、AIエージェントをはじめとする技術の発展が非常に速くなっています。単にモデルや手法を知っているだけでなく、それらを実際の業務やプロダクトにどう組み込み、どのように価値につなげるかが重要です。 そのため今回は、最新のAI研究動向を把握するとともに、研究で得られた知見を自分たちの実務課題やプロダクト改善にどのように活かせるかを考えることを目的に参加しました。
また、ラクスルでは「AIを活用したマーケティング実践」セッションを共催し、データ戦略部から2件の発表を行いました。 発表内容については、別記事で詳しく紹介しています。
会場の雰囲気と発表全体の傾向
現地会場では、研究者、学生、企業のデータサイエンティストやエンジニア、AI活用に関わる方々が数多く参加しており、非常に活気のある雰囲気でした。 発表全体の傾向としては、生成AI・基盤モデル・大規模言語モデル(LLM)に関するテーマが多くなっていた印象を受けました。特にRAG、AIエージェント、安全性評価、LLMを用いた業務支援などのテーマが目立ちました。単にモデルの性能を高めるだけでなく、実際の業務やプロダクトでどう活用し評価・運用していくかという議論が多く見られました。
また、従来からの機械学習分野も引き続き大きな柱であり、生成モデル、グラフ学習、異常検知、強化学習、統計モデリング、因果推論など、基礎から応用まで幅広いテーマが扱われていました。加えて、マルチモーダルAIやLLMエージェント、AI倫理、説明可能性、人間とAIの協調といったテーマも目立っており、AI研究の対象がモデル単体から、実世界・社会・業務の中で使われるシステム全体へ広がっていることを感じました。
印象に残った発表
最近の人工知能研究は非常に幅広く、すべてを網羅的に紹介することは難しいため、ここでは私たちが実際に見聞きした中から、特に印象に残った発表をいくつかご紹介します。
大規模行動空間におけるDoubly Robust推定のエンドツーエンド学習に関する一考察(ポスターセッション)
- 発表情報
- 深野 夏生、楊 添翔、鈴木 秀男 (慶應義塾大学)
- https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/1Yin-A-05
介入を行う施策において、通常であれば施策の優劣はA/BテストやRCT実験の形式で結論を出しますが、オフ方策評価という分野では、手元に溜まった施策ログデータのみからこれから実験する施策の優劣を評価します。本研究は、施策の変数(推薦アイテムの種類等)が膨大になった際、従来手法では評価が難しくなるという課題に対し、補助情報の埋め込み表現を活用することで改善を試みた研究だと理解しています。
ラクスルでも、日常的にA/Bテストを実施しながら施策の優劣を評価しています。特に機械学習モデルを活用した施策では調整すべきパラメータが多岐にわたるため、実験コストをかけず事前に有望なモデルを探索できるオフ方策評価は、ビジネス的にも嬉しい部分が大きいです。ラクスルのビジネスの成長とともに扱う商材が増えていくこと、すなわち行動空間が大規模になっていくことが予想されるため、将来的には本研究のような技術にもチャレンジしていきたいと考えています。
大規模言語モデルは誰を覚えているか(計算社会科学セッション)
- 発表情報
- 石原 祥太郎 (株式会社日本経済新聞社)
- https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/1H4-OS-5a-05
大規模言語モデルの集合的記憶について調査した分析研究です。Wikipediaの訃報記録から、どのようなデモクラを持った人物がLLMによって想起されるのかを明らかにし、言語や職業、性別の違いによる想起成功率を検証していました。
インターネットの普及によって、人々の情報インターフェースが本や新聞・雑誌から検索エンジンへと変化したように、生成AIの発展によって、将来的には検索エンジンからLLMとの対話へと情報インターフェースが変化していく可能性が高いです。その中で、LLMが持つバイアスを明らかにしていく研究は非常に意義深く感じました。
特に印象に残った分析結果としては、日本語版Wikipediaの人物よりも英語版Wikipediaの人物の方が想起されやすいという主張です。このようなバイアスのかかった回答がなされているとすると、長期的には、特定の国や組織、人種に関する情報へのアクセスに偏りが生じる可能性もあるのではないかと感じました。想起成功率に寄与する要因としては、Wikipediaで紹介される人物の国籍と、Wikipedia自体の記述言語の2つが大きいと考えられます。そのため、日本語版に掲載された英語圏人物、および英語版に掲載された日本語圏人物の想起成功率を比較すれば、要因を識別できると思われます。
LLM傾向性プロファイリング:マルチエージェント対話のための6軸評価フレームワーク(AI応用:対話エージェントと行動生成セッション)
- 発表情報
- 原田 悠矢、狩野 芳伸 (静岡大学)
- https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/1J4-GS-10k-01
LLMを単純なベンチマークスコアだけで比較するのではなく、マルチエージェント対話において「どのモデルを、どの役割に使うべきか」を6軸で評価する研究です。論理的推理、戦略的多様性、戦略的品質、ペルソナ可塑性、ペルソナ耐性、表現多様性といった観点からLLMの傾向をプロファイリングし、入力・思考・出力の各フェーズに適したモデルを選択する枠組みを提案していました。
近年はLLMのベンチマークも複数存在していますが、実際のプロダクト開発では、総合スコアが高いモデルを選べばよいとは限りません。(ベンチマークでは良くても、実務で使ってみたら、あんまりという経験を何回かしました…) 創作、業務支援、コーディング、対話エージェントなど、文脈によって求められる性質は大きく変わります。その意味で、LLMを「能力」だけでなく「傾向」として捉え、役割ごとに使い分けるという発想は興味をひきました。
特に面白かったのは、人狼ゲームを用いて評価していた点です。調べてみると、身近なゲームが研究での利用で割とスタンダードになっており、興味深かったです。(強化学習文脈だとAI Marioとかもありましたね) 人狼では、矛盾を見抜く力や戦略を立てる力だけでなく、ペルソナを保ったまま発話し続ける力も重要になります。普段LLMを使う中で「ペルソナをどれだけ維持できるか」はあまり意識していなかったため、新しい評価観点として印象に残りました。この観点は、LLM-as-a-Judgeにおける評価バイアスや、モデルごとの振る舞いの違いを考える上でも重要になりそうです。
一方で、この6軸やその他の評価指標を組み合わせることで、本当に最終的に実現したい成果につながるのかは検証してみたいポイントです。評価軸は文脈によって変わるはずなので、業務支援、コーディング、創作、分析エージェントなどのタスクごとに、どの軸が実際の品質やユーザー体験に効いてくるのかを見てみたいと感じました。
逆混合整数計画法: 制約条件学習からの目的関数学習(数理最適化セッション)
- 発表情報
混合整数計画問題(MILP)において、目的関数と制約式の両方をデータから学習し、観測された解を再現できるようなパラメータを推定する研究です。逆最適化は、専門家が実際に下した意思決定を観測し、その裏側にある目的関数と制約式を逆算して復元する枠組みです。
特に面白いと感じたのは、この問題を実務で使える形に落とし込んでいる点です。提案手法は2段階で構成されています。まず①制約式を学習し、観測された解が実行可能なまま制約を可能な限りタイトに引き締めるパラメータを求めます。次に②その制約を固定したうえで、劣最適性損失を誤差関数として目的関数の重みを学習します。「制約を先に、目的を後で」と切り分けることで、本来は計算的に難しいMILPの同時学習を効率よく解けるようにしているのが巧みだと感じました。実際決定変数100個規模ではあるものの、スケジューリング問題を平均325秒程度で解けており、実用的なスケールを示されていました。
ラクスルでも、現場のオペレーションに「明文化されていないが、熟練者が経験的に守っているルール」がまだまだあります。今後の業務にも活用できる可能性があると感じました。
PLaMo Translate: PFNの開発する翻訳特化大規模言語モデル(AI応用:マーケティングと推薦セッション)
- 発表情報
- 今城健太郎、平野正徳 (株式会社Preferred Networks)
- https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/1J3-GS-10d-06
PFNが開発する、翻訳に特化した大規模言語モデルに関する発表です。私自身も普段からよく使っている翻訳モデルなのですが、わかりやすい自然な日本語に翻訳してくれることが多く、その裏側の仕組みが知れて面白かったです。
作り方としては、事前学習を終えたLLMに対して、翻訳に特化したファインチューニングを行っています。ここで使われているのがDPO(Direct Preference Optimization)という手法で、「良い翻訳」と「悪い翻訳」のペアを大量に用意し、その違いをモデルに学習させます。とはいえ、このペアを人手ですべて用意するのは難しいため、訳文の良し悪しを判定するjudgeモデルを別に作り、事前学習済みモデルに作らせた100パターンの訳文をjudgeモデルでランキングすることで、学習データを自動的に揃えているのが工夫されている点でした。結果として、日英・英日のどちらでもGoogleの翻訳モデルを上回る性能を出したと報告されていました。一方で、原文にない略語などを勝手に補ってハルシネーションを起こす課題もあり、現在準備中のPLaMo 3では、judgeモデルの改善やGRPO(強化学習の手法)の追加でこの問題に取り組んでいるそうです。
面白かったのは、その自然な翻訳がどう実現されているかという点です。単に良い訳例だけを覚えさせるのではなく、良い例と悪い例を見比べさせて、その差を縮めていくコントラスト学習的なアプローチで品質を高めているとわかり、納得感があって興味深かったです。
おわりに
JSAI2026に参加して、AI研究と実務開発の距離はますます近づいていると感じました。 一方で、研究で得られた知見を実際のプロダクトや業務に活かすためには、単に最新技術を追うだけではなく、自分たちの課題に引きつけて考えることが重要だと感じました。 今後もデータ戦略部では、学会や論文から得られる知見を継続的にキャッチアップしながら、事業やユーザー体験の改善につながる形でAI技術を活用していきたいです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。



