
- はじめに:AIオペレーションマネージャーと新設AIOpsの挑戦
- 全社戦略と「AI Native」の結びつき
- 現場の多様な課題を整理し、解決する面白さ
- 工数97%削減の実現
- 成功を支えた3つの要因
- おわりに:現場主導のAI活用が、組織の競争力を加速させる
- 関連ページ
はじめに:AIオペレーションマネージャーと新設AIOpsの挑戦
ラクスル Advent Calendar 2025 19日目の担当は、10月から入社した にしたく (@ni4ta9) がお送りします。 私は「AIオペレーショングループ」という2025年8月に新設されたCIO直下の部署に所属し、AIオペレーションマネージャーとして活動しています。
聞き慣れない職種かもしれませんが、AIオペレーションマネージャーは、生成AIやAIエージェントを活用して社内の業務プロセスを再設計・最適化する専門職です。単なるツール導入担当ではなく、ビジネスの現場に入り込み、変革を主導する役割を担っています。
入社して2か月ですが、この短期間でラクスルのAI活用は明確に実益を生む実装フェーズへシフトしていると実感しています。この記事では、新設部署の一員として私が取り組んだ「AI Bootcamp Program」の事例を通じて、ラクスルが目指す「AI Native」のリアルと、その裏側をお伝えできればと思います。
全社戦略と「AI Native」の結びつき
まず触れたいのは、私たちが掲げる「AI Native」という言葉が、単なるスローガンではなく経営戦略の中核にあるという点です。
ラクスルは印刷、物流、広告、最近では金融といった各事業を通じて、中小企業のビジネスを E2E(End-to-End)で支援する多角的な事業を展開しています。これらを非連続に成長させるためには、人の力だけに頼らない仕組みのアップデートが不可欠です。
その中で、AIオペレーショングループのミッションは、AIを全社的に活用する仕組みと文化を確立し、業務プロセスの抜本的な改善と生産性向上を実現することです。
具体的には以下の3つの役割を通じて、ラクスル全体にAI活用を浸透させる取り組みを行っています。
- 現場課題の実装・運用化
- 共通基盤の整備・標準化
- 横断展開とナレッジ・人材育成
単に便利なツールを入れるのではなく、事業の構造そのものを変えにいく。この戦略との強い結びつきを感じながら働ける点が、このポジションの魅力と感じています。

現場の多様な課題を整理し、解決する面白さ
入社直後の私が取り組んだのは、現場主導の課題解決プログラム「AI Bootcamp Program」です。約1か月の短期集中プログラムを、3か月間で4回、計20名のメンバーと伴走しました。
プログラムでは、生成AIの基本的な考え方と思考法、具体的なツール(Gemini、Gems、NotebookLM、n8n、Notion AIなど)の使い方をハンズオン形式の研修でレクチャーします。それを受けて各人が現場で直面しており、AIで解決したい課題を設定します。
これらの取り組みを通じて、営業、CS、事業責任者など、多様なステークホルダーと関わります。一見すると大変そうに見えるかもしれませんが(本当に大変でした)、これは私にとってラクスル全体のビジネス構造を短期間で理解するための最高の学習機会でもありました。
工数97%削減の実現
この短期集中プログラムの取り組みを通じて生まれた象徴的な成果の一つが、セールスオペレーション領域における「工数97%削減」の事例です。
従来、営業担当からの分析依頼は、SalesOps担当者が都度BigQueryやコネクテッドシートを使ってデータ抽出から分析、レポート作成に30分以上を要していました。
そこで、Slackに企業名を入力するだけでAIが過去の実績データを分析し、傾向やネクストアクションを即座に返すワークフローを担当者とともに構築しました。 これにより、以下の成果が実現できました。
- 対応時間を30分から1分へ短縮(約97%削減)
- 営業の意思決定スピードが大幅に向上
- 24時間365日 複数同時に対応可能
- 担当者はより戦略的な業務に集中できる環境へ
成功を支えた3つの要因
エンジニアではない現場メンバーが、短期間でここまでの実装を行えたのか。振り返ると、以下の3つの要素が成功の要因と考えられます。
1. 現場のオーナーシップとコミットメント
現場メンバーが「自分たちで業務を変えるんだ」という当事者意識を持てるよう、短期集中の研修と実践を通じて、AI Nativeなマインドセットやプロンプトエンジニアリングといった業務活用に必要なスキルを習得できる環境を整えました。
ROIを意識した課題設定を行い、実質2週間程度という限られた実装時間に追われ、全社に向けた成果発表のプレッシャーもありました。通常業務に加えて研修や実践にも取り組むのは大変でしたが、全員が前向きに試行錯誤し、確かな成果を創出することができました。
AI時代は早く試して、早く結果を出すことが重要です(たとえ失敗しても)。
2. 標準化されたAIツールの提供
ラクスルでは、GeminiやNotebookLMといったGoogle Workspaceの基盤AIツールに加え、n8nやDify、LibreChatをセルフホスティングしています。
社内データを安全に扱えるセキュリティとガバナンス体制を構築する必要があるため、隣接部署のコーポレートテクノロジー部がこの基盤整備に取り組み、安全にAIツールを活用できる環境を整えました。
特にn8nの活用は、単なる自動化ツールとしてではなく、既存の業務プロセスを紐解き、AIがある前提で再設計する基盤として機能しました。結果として、どの領域でも高い効果を発揮しています。
Slackやメール、カレンダーなどの日常的に利用している既存ツールとの親和性が高く、ノーコード・ローコードで実装できる点、そしてHuman-in-the-Loopを取り入れやすい点も大きな利点でした。
Human-in-the-Loopとは、AIが自動処理を行う中で、重要な判断は人間が介入・承認するという設計思想です。これにより、完全自動化のリスクを抑えつつ、効率化を実現できます。
3. ドメインエキスパート × AIエキスパートの協働
新しいツールの導入、API連携、非構造化データの整理など、技術的な壁は必ず存在します。
例えば、n8nはノーコード・ローコードツールとはいえ、業務プロセスを細かく分解し、各ステップをノードとして組み立て、必要に応じてJavaScriptでロジックを記述する必要があります。短期間で成果を出すためには、技術的な支援が不可欠でした。
そこで意識したのが、FDEという立ち位置です。FDE(Forward Deployed Engineer)とは、「顧客(現場)の最前線に飛び込み、技術で課題を解決するエンジニア」を指します。
私たち自身もさまざまな部署のドメイン知識を「解像度高く」理解し、プロンプトに落とし込む必要がありました。印刷や製造などの業務知識も必要だったのは大変でしたが、ラクスルならではの面白さでもありました。
こうした状況で、FDEとして現場に入り込み、CursorやClaude Codeなどの コーディングエージェントも活用して迅速に開発しました。現場のドメイン知識を技術力で支えることで、標準ツールだけでは実現できない仕組みを構築できました。
「解像度」というキーワードは、ラクスルグループの行動指針(RAKSUL STYLE)の一つである「Reality」を支える重要な概念で、顧客の痛みや業務の細部を「解像度高く」把握することで、初めて本質的な課題解決が可能になるという考え方が浸透しています。

おわりに:現場主導のAI活用が、組織の競争力を加速させる
ラクスルのAI活用は、個人の生産性向上という枠を超え、組織全体の競争力を高めるフェーズに入りました。2026年に向けて、この動きはさらに加速していきます。
- 全社戦略とリンクしたAI活用推進
- 現場と協働した具体的な課題解決
- それらが全社へ波及していくスケール感
これらを同時に味わえるのが、今のラクスルです。ラクスルではAIを武器にして、業務や事業を変革したいという熱意を持ったエンジニア、PM、ビジネス職の方を全方位で募集しています。
「AI Nativeな環境で、自分の職能を進化させたい!」そう思われる方は、ぜひ採用ページを覗いてみてください。お待ちしております。
関連ページ
AIオペレーショングループの関連記事です。本記事を読んで私たちの取り組みに興味を持たれた方は、ぜひこちらもご覧ください!