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人間がプロンプトを磨く時代は終焉を迎える

この記事はノバセル Advent Calendar19日目です。

こんにちは。ノバセルでエンジニアをしている浅田です。 ここではプロンプトエンジニアリングの今と未来について考察していきたいと思います。

はじめに

近年、自然言語処理の飛躍的な進歩に伴い、プロンプトエンジニアリング(Prompt Engineering)は大型言語モデルを効果的に活用するための中核的な手法として注目を集めています。プロンプトエンジニアリングは、モデル自体を再訓練せずに、入力となる「指示(プロンプト)」を巧みに設計・調整することで、目的に適した高品質な出力を引き出すアプローチです。

しかし、これまでは主に人力でプロンプトを設計しており、その過程には多くの試行錯誤や専門的な知識が求められていました。また、モデルが更新されるたびに再最適化を行う必要があるなど、非効率的な側面も明らかになっていました。

本稿では、従来の課題を整理した上で、技術の進化による解決策と、今後の展望について整理し、深く掘り下げて考察します。

1. 手動によるプロンプトエンジニアリングの課題

1.1 効率性の問題

  • 試行錯誤の増大: タスクごとにプロンプトを微調整する作業は労力と時間を要し、極めて非効率的です。
  • スケール不可能性: 利用ケースが増えるにつれ、全てを人手で対応することは現実的でなくなります。

1.2 専門知識への依存

  • モデル特性の理解要件: 効果的なプロンプトを作るにはモデル構造や潜在的能力への深い理解が不可欠です。
  • タスク領域知識の必要性: 問題領域を把握していないと、的外れなプロンプトや不十分な指示が生じます。

1.3 入力設計の繊細さ

  • 微細な表現差の影響: わずかな言い回しの変更で結果が大きく変動し、誤った出力が頻発します。
  • 品質担保困難: シビアな入力管理を求められ、品質安定化には多大な労力が必要です。

1.4 モデル更新による再最適化

  • アップデートのたびの再作業: モデルバージョンが変わるたび、過去の最適化が無効化され、新たな最適化が必要となります。

2. 課題を解決する技術進化

これらの課題を克服するため、プロンプトエンジニアリングを取り巻く技術は劇的に進化しています。以下では解決策を4つの視点から整理します。

2.1 モデル自体の高性能化

  • 簡易指示への対応: GPT-4などのモデルは「要約して」「翻訳して」といったシンプルなプロンプトでも期待通りの出力を返します。
  • 文脈理解力向上: 曖昧な指示でも文脈から適切な処理を行うため、プロンプト設計に割く労力が減少します。

www.sciencedirect.com 上記の記事を見ると、「It has been noted that GPT-4 better understands prompts than Google AI, even with verbal flaws, and tolerates grammatical errors.」とあります。 GPT-4が不完全なプロンプトに対しても正確に対応できることが示されています。

2.2 自動最適化技術の進化

  • AutoPrompt: AI自らが課題の本質を掴み、最適なプロンプトを自動生成する技術が登場しています。

arxiv.org

AutoPromptの手法は以下の手順で構成されています:

  1. タスクの再構築

    • 与えられたタスク(例: 感情分析)を「穴埋め問題」(fill-in-the-blank)形式に変換。
    • 例: 「This movie is [MASK].」のようにプロンプトを構成。
  2. トリガートークンの追加

    • プロンプトに共通の「トリガートークン」(例: atmosphere, dialogueなど)を挿入。
    • トリガートークンは、モデルが予測を改善するよう最適化される。
  3. 勾配ベースの探索

    • トリガートークンを初期状態([MASK])から始め、勾配情報を利用してトークンを選択。
    • トリガートークンを変更しながらラベルの予測確率を最大化する。
  4. ラベルトークンの選択

    • 特定のクラス(例: 感情分析の「positive」や「negative」)に対応する単語(例: fantastic, terrible)を自動で選定。
    • [MASK]トークンの予測確率を基に、関連性の高い単語をラベルとして設定。
  5. プロンプトの評価と更新

    • 構築したプロンプトをモデルに与え、予測精度を評価。
    • 最適なプロンプトを選び、タスクの実行に利用。

この手法により、手動設計の労力を削減し、さまざまなタスクに効率的に適応可能なプロンプトが生成できます。

AutoPromptの実装例には以下のようなものがあります。

github.com

2.3 分野特化型LLMの登場

  • 分野特化モデル: 医療、法務など領域特化AIは、その分野特有の知識を事前に内包し、複雑な指示不要で高度な応答を実現します。

sites.research.google

Med-PaLMは、Googleが開発した医療特化型大規模言語モデル(LLM)です。PaLMを基に医学論文を活用してトレーニングされ、医療現場での質問応答や診断支援を提供します。

2.4 補助ツールや支援システムの普及

  • テンプレートライブラリ: 汎用的な指示テンプレートが用意されており、非専門家でも標準化されたプロンプトを容易に利用可能です。
  • プロンプト生成支援ツール: AIがユーザーの目標に合わせて最適なプロンプトを提案するため、手動による試行錯誤が大幅に軽減されます。

www.youtube.com

上記はClaudeで提供されているprompt improverという機能です。これを利用することで、人間が生成した粗末なプロンプトをClaudeがprompt engineering techniquesに則って改良してくれます。

おわりに

プロンプトエンジニアリングは、モデル性能向上や自動最適化技術の進化、タスク特化型AIの普及、そして補助ツール群の充実により、従来とは全く異なるかたちへとシフトしつつあります。

これにより、個別の人手による細かな指示設計の必要性は薄れ、より高度な活用戦略や創造的な業務への人間のリソースシフトが可能になります。AIと人間が互いを補完し合い、新たな価値創出へと進む未来はすでに見え始めているのです。